1. はじめに
「何度話し合っても、配偶者が離婚に応じてくれない」「財産分与や親権のことで意見が全くかみ合わない」——そのような状況で、次の一手として「離婚調停」を検討されている方は少なくありません。
しかし、「調停って何をするの?」「どこに申し立てればいいの?」「期日に何を話せばいいの?」といった疑問を持ち、なかなか一歩を踏み出せない方も多いようです。
この記事では、協議離婚がまとまらずに離婚調停の申立てを検討している方に向けて、申立ての手続きから調停期日の進み方、調停が成立・不成立になったときの選択肢まで、一連の流れをわかりやすく解説します。
この記事を読み終わる頃には、離婚調停とはどのような手続きなのか、何を準備すればよいのか、そして調停を有利に進めるために何ができるかについて、具体的なイメージを持っていただけるはずです。
2. 離婚調停とは — 家庭裁判所の調停手続きの概要
調停とは何か
離婚調停は、家庭裁判所において「調停委員」(ちょうていいいん)と呼ばれる第三者が間に入り、夫婦双方の意見を聞きながら話し合いによる解決を目指す手続きです。裁判のように白黒をつける場ではなく、あくまで当事者同士の合意を目指すものです。
調停委員は、通常は男女各1名で構成される非常勤の公務員であり、弁護士、司法書士、元裁判官、福祉関係者など、社会的経験豊富な方が選ばれています。調停委員が直接的な解決策を「命じる」ことはなく、双方の話を引き出しながら、合意に向けた橋渡しをする役割を担います。
協議離婚との違い
日本の離婚制度には、大きく分けて「協議離婚」「調停離婚」「審判離婚」「裁判離婚」の4種類があります。
協議離婚は夫婦だけの話し合いで成立し、離婚届を提出するだけで完結します。しかし、配偶者が離婚自体に応じない、あるいは財産分与や親権などの条件が折り合わない場合は、協議では解決できません。
そこで次のステップとして利用されるのが離婚調停です。日本の法律では、離婚に関して裁判を起こす前に、原則として調停を先に申し立てなければならないとされています。これを「調停前置主義」(ちょうていぜんちしゅぎ)といいます(家事事件手続法第257条)。
調停の特徴
- 話し合いベースの手続きであり、合意がなければ調停は成立しません
- 夫婦が直接顔を合わせる必要は基本的になく、交互に調停室に呼ばれる形式が多いです
- 申立人と相手方が同席するかどうかは、裁判所の判断や当事者の希望によります
- 調停で成立した内容は「調停調書」(ちょうていちょうしょ)に記載され、確定判決と同等の効力を持ちます
3. 離婚調停の申立て手続き
申立先
離婚調停は、相手方(申立てられる側)の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てるのが原則です(家事事件手続法第245条)。ただし、当事者双方が合意した場合は、他の家庭裁判所に申し立てることもできます。
遠距離に相手方が居住している場合は、申立人にとって不便な場合もありますが、電話会議システムやウェブ会議システムを活用することで、遠方の申立人も地元近くの裁判所から参加できる取り扱いをしている庁もあります。詳細は申立先の家庭裁判所に確認するとよいでしょう。
必要書類
一般的に必要な書類は以下の通りです。なお、個別の事情によって追加書類が必要になる場合があります。
- 夫婦関係調整調停申立書(裁判所のウェブサイトや窓口で入手できます)
- 申立人・相手方の戸籍謄本(発行から3か月以内のもの)
- 事情説明書(申立書に付随する書式で、現在の状況や申立ての経緯を記載します)
- 連絡先等の届出書
- 進行に関する照会回答書
親権・養育費・財産分与・慰謝料などについても調停で話し合う場合は、子どもの年齢によっては子の戸籍謄本、双方の収入資料(給与明細・源泉徴収票・確定申告書など)、財産関係の資料(不動産登記事項証明書・預貯金通帳のコピーなど)が必要になることがあります。
申立費用
裁判所への申立費用は比較的低額です。
- 収入印紙:1,200円(離婚調停の場合)
- 郵便切手:裁判所によって異なりますが、数百円から1,000円前後が目安です
これ以外に弁護士を依頼する場合には弁護士費用がかかりますが、本記事では具体的な金額についての言及は控えます。
4. 離婚調停の流れ — 第1回期日から成立・不成立まで
申立てから第1回期日まで
申立書類を家庭裁判所に提出すると、裁判所が書類を確認した上で相手方に呼出状を送付します。双方のスケジュールを調整した上で、通常は申立てから1〜2か月後に第1回の調停期日が設定されます。
調停期日の進め方
調停期日は、申立人と相手方が交互に調停室に呼ばれ、調停委員と話し合いを行う形式が一般的です。一方が調停委員と話している間、もう一方は待合室で待ちます。申立人と相手方は原則として同じ空間に置かれないため、DVや精神的な支配関係がある場合でも、一定の安全が確保された状態で手続きを進めることができます。
各期日は通常2〜3時間程度で、1回の期日では結論が出ないことも多く、複数回の期日を経るのが一般的です。期日の間隔は1か月に1回程度が標準的で、合計3〜5回ほど重ねることが多いとされています。
調停成立
双方が全ての条件に合意した場合、調停が成立します。成立した内容は調停調書に記載され、申立人と相手方の双方に交付されます。調停調書に記載された離婚の合意は確定判決と同等の効力を持つため、これをもって離婚が成立します。なお、戸籍への反映のために、調停成立後10日以内に離婚の届出を行う必要があります(戸籍法第77条)。
調停不成立
双方の意見が最終的に折り合わず、合意が得られない見込みとなった場合、調停委員から「調停不成立」とする意見が示され、手続きが終了します。調停が不成立になった場合の選択肢については、第7章で詳しく説明します。
取り下げ
申立人は、調停が成立または不成立となる前であれば、申立てを取り下げることができます。当事者間で改めて協議が進展した場合などに取り下げが行われることがあります。
5. 調停で話し合う内容
離婚調停では、離婚の合意だけでなく、離婚に付随するさまざまな条件についても同時に話し合うことができます。主な議題は以下の通りです。
離婚の合意
そもそも離婚するかどうかについての合意が大前提です。相手方が離婚に同意しない場合、この点から交渉が始まります。
親権
未成年の子どもがいる場合、離婚後の親権者(しんけんしゃ)を決める必要があります。親権とは、子どもの養育・監護や財産管理に関して親が持つ権限と責任です。日本では現在、協議離婚・調停離婚においては単独親権が原則ですが、令和6年(2024年)の民法改正により、2026年以降は協議・調停による共同親権の合意も可能となる見込みです(施行時期は改正法の規定による)。
養育費
子どもと離れて暮らす親が支払う養育費(ようくがくひ)の金額・支払い方法・支払い終期についても合意します。金額については、裁判所が公表している「養育費算定表」が参考資料として用いられることが多いです。
財産分与
婚姻中に夫婦が共同で築いた財産(共有財産)を分け合うことを財産分与(ざいさんぶんよ)といいます。不動産・預貯金・自動車・保険の解約返戻金・退職金(婚姻期間対応分)などが対象となり得ます。原則として婚姻前から保有していた財産や、相続・贈与によって取得した財産は対象外となります。
慰謝料
不貞行為(婚姻関係にある配偶者以外との性的関係)やDV・モラルハラスメントなど、婚姻生活を破綻させた有責行為があった場合、その精神的苦痛に対する損害賠償として慰謝料の請求が問題になることがあります。
面会交流
子どもと離れて暮らす親が、離婚後も子どもと交流するための取り決めです。面会交流(めんかいこうりゅう)については、面会の頻度・時間・場所・方法などを具体的に定めることが望ましいとされています。子どもの福祉を最優先に考えることが基本原則です。
6. 離婚調停を有利に進めるためのポイント
主張を整理して伝える
調停期日は1回あたりの時間が限られており、自分の意見を効果的に伝えることが重要です。事前に言いたいことを箇条書きにまとめ、メモを持ち込んで話すと伝わりやすくなります。感情的になりすぎず、事実と自分の希望を落ち着いて話す姿勢が大切です。
証拠・資料を準備する
財産分与や養育費、慰謝料などを請求する場合は、それを裏付ける資料を用意しておくと説得力が増します。例えば、不貞行為を理由に慰謝料を請求する場合は、それを示す証拠(メッセージのスクリーンショット、写真など)を事前に整理しておきましょう。ただし、証拠の収集方法によっては違法となる場合があるため、取得方法には注意が必要です。
相手の主張も把握する
調停委員は双方の話を聞いた上で伝言をしてくれます。相手がどのような主張をしているかを把握した上で、自分の意見を組み立てることが合意への近道です。
調停委員との関係を大切にする
調停委員は仲介役であり、自分の味方でも敵でもありません。ただ、調停委員の印象は手続きの進行に影響することがあります。礼儀正しく誠実な態度で臨むことが、結果として自分にとってもプラスになります。
感情と要求を分ける
配偶者への怒りや悲しみを抱えることは自然なことですが、調停の場では、感情の発露よりも具体的な要求(何を求めているか)を明確に伝えることが重要です。「なぜ許せないか」ではなく「どのような条件で離婚したいか」に焦点を当てた話し合いが、調停の早期解決につながります。
第三者の視点を取り入れる
自分だけで調停に臨む場合、客観的な視点を失いがちです。弁護士に同行してもらったり、事前に相談したりすることで、自分の主張が法的に妥当かどうかを確認できます。
7. 調停が不成立になった場合の選択肢
審判
家庭裁判所の調停が不成立に終わった場合、同じ家庭裁判所に対して「審判」(しんぱん)の申立てをすることができます。審判は、裁判官が双方の事情を考慮した上で、裁判官が判断を下す手続きです。ただし、離婚そのものについては審判では原則として判断されず、財産分与や養育費などの附帯事項については審判で結論が出ることがあります。
なお、調停が不成立になると、財産分与や養育費の申立てについては自動的に審判手続きに移行するものとされています(家事事件手続法第272条)。
離婚訴訟
離婚そのものについて合意ができなかった場合、家庭裁判所に対して離婚訴訟(りこんそしょう)を提起することができます。訴訟では、民法第770条に定められた「法定離婚原因」(不貞行為・悪意の遺棄・3年以上の生死不明・回復の見込みがない強度の精神病・その他婚姻を継続しがたい重大な事由)があると認められれば、相手が同意していなくても離婚が認められます。
訴訟は調停とは異なり、双方が書面で主張を戦わせ、証拠調べを行い、最終的に裁判官が判決を下します。解決まで1年以上かかることも珍しくなく、精神的・経済的な負担が大きい手続きです。そのため、訴訟に移行する前に、弁護士に相談して手続きの全体像を把握しておくことが重要です。
再び協議する
調停が不成立になっても、その後に当事者同士で話し合いが再開し、協議離婚が成立するケースもあります。調停の過程で双方の主張や条件が明確になったことで、かえってまとまりやすくなることもあります。
8. 弁護士に依頼するメリット
手続きの全体像を把握できる
離婚調停は当事者本人だけで申立てることも可能ですが、手続きの流れや準備すべきことについて、弁護士に相談することで全体像を把握しやすくなります。
交渉・主張の代理
弁護士に依頼すると、調停期日に同席して申立人の代理人として発言・交渉を行うことができます。感情的になりやすい場面でも、法的な観点から冷静に主張を整理してもらえます。
有利な条件を引き出せる可能性
財産分与の計算方法、養育費の適正額の確認、慰謝料請求の可否など、専門的な知識を要する場面で弁護士のサポートを受けることで、より適切な条件での合意を目指せます。
精神的な支えになる
離婚は人生の大きな転機であり、精神的に疲弊することも多いです。弁護士を代理人として立てることで、交渉の窓口を一本化し、相手方や相手方の弁護士からの直接のコンタクトを遮断することができます。
調停不成立後の対応もスムーズ
調停が不成立になった場合、審判・訴訟へのスムーズな移行も視野に入れる必要があります。弁護士に依頼していれば、調停で積み重ねた事実関係を引き継ぎながら、次の手続きに備えることができます。
9. まとめ
離婚調停は、協議離婚がまとまらない場合に、第三者(調停委員)を介して解決を目指す家庭裁判所の手続きです。申立ての費用は収入印紙1,200円程度と比較的低廉であり、相手方と直接顔を合わせなくてよい場合が多いため、DV・ハラスメント被害を受けている方にとっても利用しやすい制度です。
申立てから解決までの大まかな流れは次の通りです。
- 必要書類を揃えて相手方住所地の家庭裁判所に申立てを行う
- 第1回期日が設定される(申立てから1〜2か月後が目安)
- 複数回の期日を経て話し合いを重ねる
- 合意に至れば調停成立・調停調書の作成と離婚届の提出
- 合意に至らなければ調停不成立 → 審判または訴訟へ
調停を有利に進めるためには、主張を整理して伝えること、必要な資料を準備すること、そして可能であれば弁護士に相談・依頼することが有効です。
離婚調停は、あなたと相手方の双方にとって納得のいく解決を探る場です。感情的になりすぎず、自分が求める条件と優先順位を明確にした上で、前向きに臨んでいただければと思います。
免責事項
本記事は、離婚調停に関する一般的な情報提供を目的として作成したものであり、法的アドバイスを提供するものではありません。個別の事案への適用については、必ず弁護士などの法律専門家にご相談ください。また、法律・制度は改正される場合があり、本記事の情報が最新の状況と異なる場合があります。記事の内容を参考にされた場合でも、当事務所は一切の法的責任を負いかねます。具体的な手続きや判断については、管轄の家庭裁判所または弁護士にお問い合わせください。